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リサーチ知識

「擬人化法」で消費者にとってのブランド価値を知ろう

2023.01.23
株式会社インテージクオリス リサーチ&インサイト部 五十嵐優美

自社のブランドイメージを知って施策に反映したいと思ったときに、マーケティング担当者の皆様はどういった調査を行いますか?定量調査で数値的なデータを取得するか、もしくは定性調査でのデプスインタビューフォーカスグループインタビューを行って対象者に問いを投げかければ出てくるのかな・・・?と検討する方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、自社のブランドイメージを知りたいときにピッタリな「擬人化法」について、解決できる課題を交えて紹介します。

擬人化法は投影法のテクニックでブランド価値を知ることができる

定性調査のインタビュー手法は課題や目的に沿って選択する必要があり、その種類は多岐にわたります。インタビューの際、消費者(対象者)は話してくれますが、どうしてもイメージが思いつかない、自分を良く見せたいなどの気持ちが働いて「ホンネ」を聴くことが難しい場合があります。そのため、定性調査でインタビューを行う際にはその「ホンネ」を聴き出す工夫が必要です。

「ホンネ」を聴き出す工夫の一つに、投影法と呼ばれる技法があります。投影法とは、心理学において、人が言葉で表現しにくい思いや潜在的な考え、意見などを他のモノや人を通して引き出すものです。
その考え方をマーケティングリサーチに応用したものであり、他のモノに気持ちを投影させ、消費者(対象者)はイメージしにくい事、社会的な抑圧を感じることなく発言することができるようになります。
「この商品についてどう思いますか?」と直接的に質問したときには引き出せないような、本質的な気持ちを探るために活用できます。

今回は、投影法の手法の一つである擬人化法を紹介します。
擬人化法はパーソニフィケーションとも呼ばれ、商品やブランドに対して感じるイメージや魅力を、擬人化した人間のキャラクターの雰囲気を通して話してもらうことで明らかにするものです。
ただ単に消費者(対象者)が認知している事実だけではなく、それらを踏まえてブランドをどのように認識しているのか、ブランドの価値やブランドとの心の距離(心理的距離感)などを明らかにできます。

実施の流れ

ここまで擬人化法の特徴を紹介しましたが、下記の図のような流れで擬人化法は行われます。

最初にホワイトボードを用意し、消費者(対象者)が発言した内容を記載できる環境を用意します。ホワイトボードに発言を記載して可視化することで、消費者(対象者)も自身の発言を整理しやすくなり、考えながら話すことが可能です。
次に「ブランドが人間になった場合どうなるか」を質問します。
ただ単に、漠然としたこの問いだけを投げかけても、イメージを言語化できる人は多くないため、「性別」「年齢」などの、デモグラフィックや「趣味」「休日の過ごし方」などの人柄を想像しやすいワードを伝えると、より具体的に表現できるようになります。
最後に自分とそのブランドとの関係を問うことで心理的な距離感を探ります。

消費者(対象者)に記入してもらう場合は下記のようなシートを用意しておきます。

便利な擬人化法ですが注意しなければならないこともあります。

1つ目がブランド単体で実施するよりも複数で実施することで違いが出やすいということです。1つの場合だと比較対象が無いため、アイデア出しがしにくいことがあります。

2つ目はバイアスを避けるということです。擬人化法を行う前や実施中に商品写真やブランドロゴを見せると、その印象に引っ張られてしまうので避けましょう。

最後に、TVCMに出演している人や社長にそのブランドのイメージが引っ張られている人に対して適宜修正を行いましょう。あくまで商品やブランド自体のイメージを聴き取りたいので、それ以外の情報は事前に排除することが必要です。

擬人化法で解決の糸口が見つけやすいおすすめの課題

商品やブランドに対するイメージや魅力の擬人化を通して、消費者の認識を明らかにできる擬人化法ですが、課題の例を3点紹介します。

①プロモーションや商品パッケージが競合と差別化できていない(洗濯用洗剤メーカーの例)
②自社ならではの新商品開発のために、アイデアの種を見つけたい(カフェチェーン経営会社)
③ヘビーユーザーが持つブランドの本質的な価値を明らかにしたい(チョコメーカーの例)

課題例①プロモーションや商品パッケージが競合と差別化できていない(洗濯用洗剤メーカーの例)

ある洗濯用洗剤メーカーが既存商品をリニューアルしました。しかし、リニューアルしたにもかかわらず、売れ行きがイマイチ伸びません。
そこでプロモーション担当者は「プロモーションや商品パッケージが競合と差別化できていないのでは」という課題を持ちました。
擬人化法を取り入れることで、販促やパッケージが持つ印象を明らかにし、競合との差別化ポイントや印象の違いを知ることでリニューアルした商品の軌道修正をしようと考えました。

このように「競合との差別化」という課題がある場合には、直接ポジネガを消費者(対象者)に聴いても良いですが、より具体的な印象を知るためにフィルターを通し話してもらうことで良い回答が得られます。

課題例②自社ならではの新商品開発のために、アイデアの種を見つけたい(カフェチェーン経営会社)

街に出ると色々なカフェチェーンが並んでおり、読書をするとき、コーヒーを楽しみたいときで使い分けている人もいるのではないでしょうか。
あるカフェチェーンの商品開発担当者は、「新商品のドリンクは定期的に出しているけれど、競合との違いは出せているのだろうか」と、ふと思いました。
色々なカフェが乱立する中で、自社らしさを商品に反映したい、自社の〇〇が好きだから利用するという利用者を増やしたい、と考えました。
「自社ならではの新商品開発のために、アイデアの種を見つけたい」という課題から、「ブランドが持つ印象からターゲットとの心理的距離感を明らかにすること」を目的とし、自社と競合のカフェチェーンは消費者(対象者)にどのようなイメージを持たれているか調査をしました。

擬人化法を使い、各カフェブランドを身近な人に例えてもらうことで、「憧れている」「頼りになる」「雲の上の存在」「センスが合わない」「いつも一緒の親友」…など、自分自身とカフェブランドの心理的な距離感を言語化しやすくします。

課題例③ヘビーユーザーが持つブランドの本質的な価値を明らかにしたい(チョコメーカーの例)

大人気のチョコブランドを持つA社は20周年を記念して、ブランドカテゴリ内で新しいコンセプトのチョコ商品を発売する予定です。
ただ、その大人気チョコブランドは長年愛されており、ヘビーユーザーも多くいる状態。
ブランド担当者はブランドのイメージを損なわない新商品を開発する必要があると考えていました。
そこでヘビーユーザーに話を聴き「ヘビーユーザーが持つブランドの本質的な価値を明らかにする」ために、「ヘビーユーザーが持つブランドへの印象」を知ることで新商品コンセプト開発の注意点を探ろうとしています。
ヘビーユーザーがブランドを愛しているポイントを押さえ、変えてはいけないところを見つけるために、擬人化法を取り入れました。

擬人化法を利用した具体例

おすすめの課題でご紹介した例を元に、アウトプットイメージを紹介します。

アウトプット例①プロモーションや商品パッケージが競合と差別化できていない(洗濯用洗剤メーカーの例)

自社製品は柔軟剤を変えよう、新しいことに挑戦しようという企業側のメッセージは伝わっているものの、頻繁に変わるパッケージや真新しすぎる印象から安定感がないと思われていました。
また、競合品と比較すると、選んで失敗しない、困ったときに助けてくれるという安心感のあるイメージがある一方で、自社製品は新規性を追い求めた結果、「少し危なっかしい」=「利用するときに本来の柔軟剤の機能として不十分なのではないか」というイメージに。
よって自社製品は「パッケージやCMの差別化ができていない」のではなく、認知して好印象、興味を持ったとしても、どこか危なっかしい部分を感じ、結局いつものものを買ってしまうことが明らかになりました。
この課題の場合、擬人化法を使うことでこのようなブランドのコアイメージにたどり着くことができました。

アウトプット例②自社ならではの新商品開発のために、アイデアの種を見つけたい(カフェチェーン経営会社)

ブランドイメージを単語として聴取するだけだと違いが見にくいためパーソニフィケーションを行ったところ、自社カフェはおしゃれではありつつも、親しみやすくリラックスできる空間と認識されていました。
また自分の気持ちも明るくしてくれる居心地の良いカフェで、コーヒーと料理の種類も豊富で利用用途の多さもプラスになっていることが分かりました。
競合カフェは都会的、おしゃれなど洗練された雰囲気がある一方で、近づきがたく、おしゃれすぎてアクセサリーのような感覚を持たれていました。
自社のコーヒーのおいしさを消費者(対象者)も認識していることが分かり、本格的なコーヒーとくつろげる空間を提供できていました。
アイデアの種としてはこだわりのコーヒーにマッチするメニューの開発や、リラックス効果がある素材を使用した料理を提供する、友人とのおしゃべりが進むような軽食の用意を進めるとよりよい価値が提供できるかもしれません。

アウトプット例③ヘビーユーザーが持つブランドの本質的な価値を明らかにしたい(チョコメーカーの例)

ヘビーユーザーにとって自社のチョコブランドは擬人化法によって「高身長イケメン」なのに「ド天然」というイメージが挙がり、それは高級感があるのに身近なスーパーマーケットやコンビニエンスストアで購入できるというギャップがあることが分かりました。
継続して利用するのは「笑顔が素敵」というイメージからも分かるように、そのチョコレートの利用シーンは多様で、そこにはチョコレートを食べながら人と一緒に会話をすることで楽しい気持ちになれる、笑顔になれるからということが明らかになりました。
さらに、A社のブランドの本質的な価値は「親しみやすいのに高級感」「利用シーンの多様性」であり、ヘビーユーザーは継続して購入しています。新商品も本質的な価値を軸にして検討すれば、ヘビーユーザーに受け入れられる商品作りができるのではないでしょうか。

ブランドをどのように認識しているのか、ブランドの価値や心の距離(心理的距離感)を知るための技法

今回は擬人化法について、解決できるマーケティング課題や実施の流れについて解説しました。
擬人化法は消費者が自社のブランドや商品をどのように認識していて、ブランドの価値をどのようにとらえているか明らかにできる手法です。
直接質問したときには出にくい、潜在的な気持ちを探りたい場合に適しています。

インテージクオリスでは、擬人化法をはじめ、様々な定性調査手法を用いて課題解決のお手伝いをさせていただいております。「このような課題があるが、どうやったらうまく聴き出せるか」などのお困りごとがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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