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コラム

メタバースは本当に普及するのか?カギを握るZ世代

2022.03.17
株式会社インテージクオリス リサーチ&インサイト部 リサーチプランナー/モデレーター 大野 貴広

そもそもメタバースって?

 Facebook社が社名をMetaにしたことで一気に注目度が上がった「メタバース」。現状様々な解釈があり、明確な定義が定まっていない状況ですが、共通しているのは「オンラインで繋がる仮想空間」で何らかの行動をすることのようです。現状ではMeta社やMicrosoft社のバーチャル会議サービスに加え、Epic Games社の「Fortnite」や任天堂の「あつまれ どうぶつの森」などのゲームが代表的なものとして紹介されています。

 しかし、そもそも「オンラインで繋がる仮想空間」は古くからあるSF的概念です。さらに、10年ほど前から登場した「なろう系」と呼ばれる異世界転生をテーマとしたライトノベルや、爆発的なブームとなった「Second Life」など「メタバース」と近しいコンテンツやサービスは以前から存在していました。それらと「メタバース」はいったい何が違うのか、なぜ今注目されているのか疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。

メタバースがなぜ今注目されてきているのか?

 注目の理由は、下記の3点により、古くから存在する概念であるメタバースが現実化する、活用できる土壌が整いつつあるからと考えられます。

  • スマートフォンや対応アプリの普及で、若年層を含めオンライン環境に簡単にアクセスできるようになり、各種サービスの利用や参加のハードルが下がったから
  • SNSが普及したことで、バーチャルの中に現実とは別のアイデンティティを持つことが当たり前になったから。この現実の自分と別のバーチャルアカウントを持つという文化は、自身のアバターを介して仮想現実で交流するメタバースの仕組みと相性がピッタリ
  • 仮想通貨の普及と、デジタルデータに個人所有権を付けられるNFTという技術の登場で、仮想空間に所有物を持ち、それらを売買することが可能になったから

メタバース普及のカギを握るZ世代

 とはいえ、メタバースはまだまだ先の話と感じる方も多いかもしれません。しかし、㈱インテージクオリスが実施した“テックネイティブ”とも呼ばれるα世代/Z世代(1997年~2014年生まれ、現8歳~25歳)へのインタビューからは、メタバースの普及を後押しするいくつかの「兆し」が見られました。

【Z世代についての記事はコチラ】
Z世代・アルファ世代のリアル-テックネイティブな未来の消費者を紐解く③TikTok売れは本当に存在するのか?SNSを活用した「〇〇売れ」

 インタビューでは、スマートフォンの使用実態やSNSの活用方法、さらには実際に買い物をする時の消費行動などを聴取しました。すると、この世代はコロナ禍の影響もあり、オンラインへの接続時間がとにかく長いことが分かりました。自宅で授業の時は、LINE等で友達と常につながっている状態にして、先生からの質問も瞬時に共有して回答してしまう女子大生。学校から帰ってきたら、まずはゲームにログインしDiscordで会話をしたりゲームを楽しむ中学生男子などです。メタバースの前提である“常時”オンライン環境への接続は既に行われていました。

 さらに、この世代の男性と関わりの深いゲームの話を聞いていくと、「ゲームの遊び方」が上の世代とは変わってきていることが明らかになりました。現在、人気のゲームが基本無料で遊ぶことのできるスマホゲームである点は変わらずでしたが、「課金」について興味深い傾向が見られました。従来は、「ガチャ」と呼ばれる抽選式で、ゲームでの勝率を上げるための“武器などのアイテム”に課金していました。しかし、α世代/Z世代に人気のゲームでは、自分の個性を表現するために、“スキン”と呼ばれるキャラクターの服装や髪型、ジェスチャーやしぐさなどを自ら選ぶ課金が中心となっていました。
 そもそも最近人気を博しているゲームの内容を見ても、従来のようにゲームをクリアすることに主眼が置かれるものではなく、ゲーム内で自分を表現したり交流することが目的となっているものに注目が集まりつつあることが分かります。ここからは、α世代やZ世代は「バーチャルでの自己表現や所有にお金をかける価値を見出し始めている」という傾向を読み取ることができます。厳密には違うものの、“デジタルデータの個人所有”というNFTに近い取引を既に始めていると言えそうです。

そしてゲームに興味を持った人は、YouTubeの中でも、攻略のための実況動画を起点に、VTuberと接点を持つ可能性が高いようです。VTuber(バーチャルYouTuber)とは2Dまたは3DのCGアバターを使って活動しているYouTuberのことです。リアルの表情や口の動き、身振り手振りなどをフィードバックしてアバターを動かしているため、メタバースに必須の技術を先駆けて取り入れている存在とも言えます。この世代は、リアルなアーティストと同様の感覚でVTuberのファンになっており、高額な関連グッズの購入やスーパーチャット(有料のコメント機能)といった実際の消費行動にも結びついていました。α世代やZ世代はCGアバターに対して、身体を持った人間に対するのと同様の感情を抱き始めています。そのため自分自身がVTuberのように「アバター」を使って仮想空間で活動したり交流したりすることにも抵抗が少ないだろうと読み取ることができます。

メタバースを活用すれば、より本音に近づけるインタビューに

 そんなメタバースを定性調査に応用することができないか、㈱インテージクオリスでは検討を始めました。定性調査のインタビューでは調査対象者の方に本音を話していただくためにリラックスさせる場づくりを心掛けています。とはいえ、初対面のインタビュアーとお話することになるので、調査対象者は「きちんと話さなければ」と無意識に身構えてしまうこともあり、打ち解けて本音で話していただくまでには一定の時間がかかります。

 コロナ禍により弊社ではオンラインインタビューが増え、ご自宅からの参加が主流となりつつありますが、メタバースの仮想空間であればよりリラックスできる、アバター等での参加になればその匿名性により、より率直に本音を語っていただくことができるようになるかもしれません。またワークショップであれば、オンラインであっても同じ場所に集まってワイワイ話し合うことのできる、参加者の“熱量”が維持でき、新しいアイディアが想起しやすくなることも考えられます。現在のVTuber以上に表情や口の動き、身振り手振りなどをフィードバックする技術の進歩によって、定性調査ならではの“消費者の生の声による臨場感”をオフラインよりも感じることができるようになるかもしれません。

メタバースの今後、五感を感じられる仮想空間へ

 ここまでご説明してきたように若年層を中心に発展の兆しが見られるメタバースですが、より身近なものになるためにはもう少し時間がかかるのではないかとも考えられます。メタバースの進化とは、テクノロジーの進化と共により“現実”に近い“仮想空間”を再現していくことです。しかし現状、最も取り組みが進んでいるゲームの分野でも人間の五感のうち「視覚」「聴覚」と、手など「触覚」の一部しかフィードバックができていません。「触覚」が全身に広がり、「味覚」「嗅覚」を追加することができれば、それこそ“現実”と“仮想空間”の区別がない、本当の意味でのメタバースが実現されることになるのではないでしょうか。

 ㈱インテージクオリスでは、メタバースに限らず日々消費者方の生の声に耳を傾けながら、新しい消費行動の兆しを探し続けています。自社の商品やサービスに関わる、兆し探しを行っている企業や団体様がおられましたら、ぜひお気軽にお声がけください。

(お問合せはこちらから)

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