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コラム

【ワークショップ事例】α世代が描く、2030年のミライとは

2023.01.30
株式会社インテージクオリス リサーチ&インサイト部 グラフィックレコーダー 泉山 清佳

インテージグループR&Dセンターが共同研究機関として参加している、産業能率大学の小々馬敦先生との研究プロジェクト「ミライ・スケッチ2030」※の中で実施した、α(アルファ)世代の考えや想いを引き出すワークショップについて紹介します。

※「ミライ・スケッチ2030」とは
次世代(約10年後)の社会の中心となるα世代とZ世代(現役大学生)で混合チームを結成し、お互いの価値観を理解尊重し、「自分たちは、将来このように暮らしたい!」という2030年の未来社会を描くプロジェクト。詳しくはこちら

自由にミライを語ってもらうための自分事化させる工夫

本ワークショップでは、α世代(小学生6年生)の4名でチームを組み、少し先の未来における社会の進歩や変化を想像しながら、「2030年の自分と暮らし」について一緒に考え、リアリティのあるイメージを語り、描くことにチャレンジしました。
そのチャレンジにおいて私たちが最も配慮したのは、彼らに自由に伸び伸びと空想あるいは想像し、自分のことばで語ってもらう、という点でした。
α世代の子どもたちは自分の置かれた状況を敏感に感じながら周囲に期待される「模範解答」を準備しがちです。
しかし、今回はSDGsの17ゴールのような未来を描いてほしいわけではありません。
模範解答探しを離れ、より自由に発想し、自分のことばで語ってもらうために「2030年の自分」を創るところから始めました。

「2030年の自分」は19~20歳くらいのはずです。身長はどのくらい?どんな髪型?どんな服?どんな勉強や仕事をしていそう?など、彼らは想像を働かせながら「未来の分身」を描きました。

子どもたちが描いた「分身=未来のわたし」は「目は悪くなっていて、スマホ一体型メガネをかけている」、「転んでも破れずに怪我もしないズボンを履いている」など、想像や空想が入り交じった人物像になっていました。
ゴールが「小学生が描く2030年の未来」だったとしても、先に未来から考えたのでは教科書に書かれているような未来が出てきてしまいます。まずは自分事化させる工夫を冒頭に持って来ることで、自分の視点での未来を描く準備ができます。

想像や空想をカタチに 「肩書外し」でありのままの自分

「安心・安全な場」という表現がありますが、子どもたちに対しては特に「何をどんな風に話しても大丈夫」という場づくりをしてから接することが重要になります。
そのためにも本ワークショップでは冒頭で「肩書外し」と言われる工夫をしました。本名や普段の呼び名だと「友達の前の自分」や「親の前の自分」を「演じてしまう」ことがあります。
そこで「2030年に暮らすわたし」として、「今」に囚われることなく、より自由におしゃべりをするために自分自身で「新しいニックネーム」を考えてもらいました。

さらに今回のワークショップでは、「絵」を描くことを通して想像や空想をカタチに表す「グラフィックファシリテーション」を活用しました。絵を使うことで、考えたことを言葉や文字で表すよりも連鎖的な発想も生まれやすく、会話も活発になります。

また、だれかの発言や付箋に書かれた「言葉」に対して「それってどういう意味?」と質問することは、ハードルが高いと感じてしまう子どもも多いようです。
そして、質問された人も、自分の思うことが伝わらなかったことにショックを受けたり怒りを感じてしまうこともあるようです。
そのため「絵」を介すことで、その人に質問しているのではなく、「絵」について問いかけをしているという形になり、質問するハードルも下がるとともに、答える側もリラックスして説明することができるという変化が生まれます。

「分身=未来のわたし創り」、「肩書外し=ニックネーム」、「絵=グラフィックファシリテーション」などは、子どもとのワークショップをより豊かなものにする有効なアプローチ方法と考えています。
そして、終始、楽しそうにペンを取り、夢中でお絵かきをする姿やワイワイとおしゃべりをする姿に、子どもたちも楽しみながら2030年を考えることができたのでは、と感じています。


自分たちが未来の街を移動できるように、
2030年の自分自身のイラストは自立するように工作しました。

α世代の描く2030年のミライ

机いっぱいに広げた模造紙を囲むように子供たちが散らばり、好きなところに「ミライの私」を置いて、思い思いに絵を描いていきました。最初は自分のすぐ前に自分なりのミライを。しばらくすると、誰かが描いたミライに自分のミライを重ねたりと、みんなのミライが重なっていきました。

ここでもう1つ工夫したのが「子供たち以外の参加者」です。子供たちには2030年の未来の自分たちを作ってもらいました。彼らだけだとどうなるでしょう。20歳前後の若者だけの未来はあり得ないですよね。ワークショップの見学に来ていた大人たちも2030年の未来の自分を描きました。中年~老人までどんどん増えていきます。病気の問題、介護の問題、子供たちのミライへの意識が自分達から外側の社会に向いていきました。そこで子供たちは自ら気づきます。「自分達より下の子供たちがいない」。2030年の子供たちや赤ちゃんは絵で足します。育児の視点も絵になりました。

そうして約2時間のワークショップが終了する頃には机いっぱいに広げた模造紙の上に、2030年の社会の縮図が生まれていました。

子どもたちが描いた2030年のミライは5つの世界に分かれていました。それぞれの世界についての詳細、解釈はインテージ知るギャラリー【α世代が考える2030年未来の社会②~2030年の社会課題から小学生が描く、2030年の暮らし】をご覧ください。

むすびとして 世界に「入る」α世代

大人たちと未来を考えるワークショップを実施すると、「生みの苦しみ」と言われる混沌とした時間が訪れます。それに対し、子供たちはそこを軽々と超えてくる、想いが溢れるように生まれてきます。この違いは何だろうと考えた時に、今回彼らが描いた絵の中にある「入る」という行為に通じるものがあるのではないかと考えています。

子どもたちは絵を描きながら「アニメの世界に入る」「ゲームの世界に入る」「水戸黄門の世界に入る」と表現していました。今世の中ではアニメの世界を忠実に再現したテーマパークやVRでゲームの世界を体験することができています。彼らが言っているのはそういうことではなく、その世界に入ること、だと思うのです。「体験」は彼らが主のため、彼らが参加した時からそこでの時間の流れはスタートします。彼らが参加しなければ、他のキャラクター達は作り物だから動かないのです。それに対し「入ること」は彼らがその世界に入っていない時もその世界で時は流れ、彼らはその世界を構成する一人でしかないのです。彼らにとって主はあくまでその物語であり、その中に入りたい。自分が主人公の世界を求めているわけではない、と感じます。

 子供たちはその世界に「入る」ことに対する抵抗が大人と比べて低く、「いーれて」「いいよ」で友達関係ができるのもそのためです。
そのため、未来を考えるワークショップも「正解はない」ことを伝えるなど、冒頭の工夫をすることで、2030年の未来に「入り」そこで見る世界を溢れるままに描き出せたのだと感じました。

子供たちの発想を間近でご覧になりたい企業の皆様、教育現場で実施したい皆様、インテージクオリスでは様々なワークショッププログラムをご提供しております。是非お気軽にお問合せください。
お問い合わせはこちら

※本稿は、インテージ「知るギャラリー」に掲載した記事を、ワークショップの具体的な工夫にフォーカスして加筆修正したものになります。





ワークショップに参加していただいた、ぐんま国際アカデミー初等部の6年生4名と先生方
Graphic by 泉山清佳
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