自主調査
新型コロナウイルスの感染拡大からさまざまな常識が一変し、激動の「ニューノーマル」時代に突入した2020年。2度目の緊急事態宣言から幕を開けた2021年、生活者の意識や行動はここからどのように変化していくのでしょうか。
インテージクオリスでは、1人の生活者の行動や気持ちを理解すること(n=1分析)により変化の”兆し”を捉え、新しい商品やサービス開発のヒントを見出そうという試み、<n=1プロジェクト>を実施してきました。コロナ禍でもポジティブな行動変容をした方を対象に日記調査を実施し、その中でも特にニューノーマル時代の生活者像の理解を深める上で興味深い投稿をしていただいた5名の方に、デプスインタビューにご協力いただきました。
今回記事にさせていただいたのは、高齢者と言われる年齢になっても仕事や趣味、消費行動などに意欲的でアクティブに活動する、通称「アクティブシニア」と呼ばれるような方です。コロナ禍で色々と行動に制限が出てしまっているのはどの年代の方でも同じだと思いますが、特に高齢者は重症化しやすいと言われている状況で、「仕事を引退して時間ができたから思いっきり旅行に行きたかったのに…」「元気なうちにいろいろやりたいことがあったのに…」という方は多いのではないでしょうか。そのような中でも、「アクティブシニア」と呼ばれる方がどのようにしてポジティブなマインドを保ち、どのような楽しみを見出しているのか。デプスインタビューから、リアルな意識を探ってみようと思います。
インタビューにご協力いただいたのは、Bさん (67歳・女性)。子供たちは独立し、現在は夫と二人で暮らしています。
日記調査では約3ヶ月間に渡り日々の出来事を投稿していただきましたが、美容・運動・英会話・映画から、AIロボットやメルカリなどのいわゆる”イマドキ”なことまで幅広くアクティブに行動されている様子がうかがえました。
シニアになってからこのようにアクティブになったのか?であれば、きっかけは何なのか?Bさんの生活の変遷から、アクティブになった背景や価値観を明らかにしていたいと思います。
まずは、Bさんのご家族について見ていきます。
夫とは「自分勝手な2人が一緒に住んでいるって感じ。」とおっしゃっていましたが、お互いに時間もお金も自由に使っている印象を受けました。
次に、Bさん自身がこれまでどのように過ごしてきたか、育児と仕事を主軸にしてまとめました。
ご本人曰く「すごい片田舎」で育ち、東京の大学へ行って勉強したいと思っていたところに結婚の話が出て、義父の支援により大学へ進学できたそうです。大学卒業後、もう少し勉強がしたいと専門学校にも通って社会保険労務士の資格を取得し、3人の子供たちを育てながら仕事をされていました。40代の頃には実家や親族間の問題により一度体調を崩し、それが落ち着いてからは「楽しまなきゃ、いつも笑っていよう」、育児が一段落してからは「自分をキレイにしよう」、定年後は「(フルタイムで)ずっと働いていたときにできなかったことをしよう」と考えるようになったようです。
Bさんの現在のアクティブさの背景としては、大きく2つあるのではないかと考えました。
Bさんが大学に進学したことついては環境に恵まれていたこともあると思いますが、当時女性の大学進学率が10%にも満たなかったような時代に自分の意志を持って進学・資格取得まで進んでいたというのは、Bさんが女性の社会進出の先駆者のような位置づけの方であったと言えそうです。元々そのような先駆け的な考え方を持ちつつ、育児や仕事に追われた時期を経て、「もっと自分のために」という現在のアクティブさにつながっているように感じられました。
仕事で人のためになっている・役に立っているというところだけでなく、ネット社会でも、メルカリではついてくれているファンの人たちに向けて自分の持ち物を提供し喜んでもらえている、SNSでは見知らぬ大勢ではなく自分を知ってくれている人たちとコミュニケーションが取れている、というところでも自分自身の価値を認識でき、テンションを高く保たれているのではないかと思います。
ここで、Bさんのn=1分析により得られた、日々の暮らしを前向きに楽しむヒントをまとめたいと思います。
インタビュー中に「ストレスをためないように」という発言が何度か出てきたBさんですが、イヤなことを忘れられるような非日常的な時間を作り、上手に気持ちを切り替えているようでした。
アクティブでも片っ端から取り入れるのではなく、自分に合うものを納得した上で取り入れているから続けられるし、楽しいという気持ちを高められるのではないかと思います。
「情報過多と言われるが、何でも信じてやるからいけないのよ、くらいに思っている。」というBさん。情報はどんどん仕入れるものの、信憑性のないものには線引きをして必要なものだけを上手に取り入れているようでした。
Bさんもやはりコロナ禍での制限は感じているようで、
のような発言があり、コロナに感染したくないという気持ちが強いことが伝わります。
そのような中でも、旅行会社のZoom説明会に参加したり、知人が経営するレストランを応援しに行ったり、家族のコミュニケーションを増やすために料理の腕をふるったりと、今できる範囲で社会参加をし、楽しみを見つけているように感じられました。
Bさんにこれからの目標を伺うと、「いかにしなやかに歳を重ねるか」とおっしゃっていました。インタビュー中に、「脳を活性化する」「ボケ防止になる」という発言が何度か出てきましたが、今現在は元気でも、どうしても年齢的に身体だけでなく認知症などの不安は抱えていらっしゃるのではないかと思います。歳を重ねるのは仕方がないけれども、心身ともに健康で自分らしく柔軟に生きていきたいという思いが込められているのではないでしょうか。
アクティブシニアと呼ばれる方々は、多かれ少なかれ、
というマインドを持ち、コロナ禍の状況でも柔軟に楽しみを見つけることで、前向きに充実した日々を送っているのではないかと思います。
今後も、インテージクオリスでは、n=1を深く理解することで、商品やサービス開発の芽を見つける取り組みを行ってまいります。次回のマガジンでは、若年独身層のCさん(25歳・女性)の深掘りを掲載いたします。
今回の分析は、下記の設計で実施した株式会社インテージクオリス・株式会社インテージの共同自主企画の調査結果をもとに行いました。