自主調査
3年ぶりに行動制限なしとなった2022年のゴールデンウィーク。コロナ禍で思うように帰省ができない時期が長く続きましたが、このゴールデンウィークは実家の家族との時間を楽しんだ方も多かったのではないでしょうか。
株式会社インテージクオリスでは、コロナ禍によって生じた意識や行動の変化を探るため、自主企画インタビューを実施。導き出した「変化の兆し」を連載記事でご紹介しています。連載第5回目にご紹介するのは、疎遠だった両親との関係が大切だとコロナ禍で気づき、コロナが収束したらご両親が住む実家の近くへの移住を検討している40代女性、Eさんのストーリーです。
現在、埼玉県でひとり暮らしをしているEさん。お仕事はIT関連です。コロナ禍になって特に変化したのは、下記の4点とのことでした。
コロナ感染拡大前から在宅で仕事をしていたEさんは、仕事が一段落した後に、自分へのご褒美として、友達と一緒にバーなどへ行ってお酒を飲むのが好きでした。週に2回以上、お酒を飲みながら友達と話して、笑って、発散をする時間を持つことが、オンとオフの切り替えになっていたとのことです。
ところが、コロナ感染拡大後は、それがゼロに。感染防止のために、お酒を飲みに行けなくなりました。その結果、何が起こったのでしょうか。まず、それまで家では飲まなかったのに、しかたなく家で飲むようになったことでメリハリがなくなり、時間のコントロールがうまくできなくなってしまいました。「仕事の後のご褒美」のはずだったお酒が、ついにはお酒を飲みながら仕事をしたりすることも。さらに、もともとLINEや電話をする習慣がほとんどなかったEさんは、友達と飲みに行かなくなったことで、コミュニケーションがほとんどない生活になってしまったとのことでした。
友達とのコミュニケーションは減ってしまったEさんですが、それまで疎遠だった両親との距離は逆に縮まったとのこと。一体何があったのでしょうか。
Eさんのご実家は埼玉からは遠く離れた、冬になれば雪が多く降る地域。70代になるご両親がお二人で住んでいます。コロナ感染拡大前は、お盆とお正月に帰省したときにご両親と少し話をする程度の距離感でした。しかしコロナ禍で、妹さんが家族のLINEグループを作って子供の写真を送ったりしていたことで、EさんもLINEを通じてご両親とマメに近況報告をしたり、いろいろ話をするようになったそうです。
果たしてLINEのグループを作っただけで、そんなに急にコミュニケーションが増えたのでしょうか。Eさんにお話をうかがうと、実は、自分の生活を見直さざるを得ない出来事がありました。
Eさんは、自分自身について、周りからあれこれ言われるのが嫌いな性格です。干渉を嫌うだけでなく自分一人で抱え込むタイプでした。昔から、お盆やお正月に帰省をした際にご両親から近況を尋ねられても、「まあ、頑張っているよ」くらいで、詳しくは話さなかったそうです。たとえ辛い状況になっても、家族に相談することもありませんでした。
そんなEさんでしたが、コロナ感染拡大後、飲みにも行けず、友達とのコミュニケーションの機会がなくなり、一人で家でお酒を飲んでメリハリのない生活を続けているうちに、ストレスがどんどん溜まって、ついに体を壊してしまいました。
すると、妹さんから「なんでそんなふうになるまで人に言わないのか!」とすごく怒られたそうです。また、母親からも、一人暮らしのEさんが倒れても、コロナ禍だから自分はすぐにかけつけられない、もうこんなことは勘弁してほしい、愚痴でもなんでも話す妹を見習いなさいと言われました。
妹さんと母親にたしなめられたEさんはふと考えました。地方に住む両親と、埼玉県に住む自分との物理的な距離感があること、両親と十分なコミュニケーションをとらず疎遠な関係になっていたこと。「このままでよいのだろうか? 実家の両親と、今のような関係でよいのだろうか? いや、よくない・・・」 Eさんの気持ちに変化が生まれました。
そんな時、妹さんが作った家族のLINEが、Eさんとご両親の心の距離を縮めることになったのです。
このままではよくないと考えたEさんは、妹さん、ご両親とLINEで会話をするようになり、自分の近況を伝えるようになりました。ご両親からEさんに電話がかかってくることも増えました。ご両親との心理的な距離がずいぶん近くなったそうです。
さらにEさんは、コロナ禍が落ち着いた後のことも考え始めています。70代になり夫婦二人暮らしをしているご両親とのこれからの関係を考え、実家のご両親の近くに移住することを考えるようになりました。現在、仕事はほぼテレワークなので、住まいを故郷に移してテレワークを続けたいと考えています。
ストレスから体を壊したことで、自分に何か起きてもご両親がすぐにかけつけられないことに気づいたEさんは、「もしも将来、高齢の両親に何かあった時、自分は実家へすぐにかけつけられるのだろうか?」という気持ちが強くなり、ご両親が住む実家の近くへ移住して、いざという時には自分がすぐにかけつけられるようにしたいと考えるようになったそうです。
Eさんは、実家でご両親と一緒に暮らしたいわけではなく、ご両親のもとにすぐにかけつけられる近い距離で一人暮らしがしたいそうです。自分の生活リズムや環境を保ちながら、親と近い場所で住むことを考えるようになりました。
それまで自分がやることに対して、親はもちろん周りの人から何かを言われたり干渉されたりするのが嫌で、ご両親とも話すことが少なかったEさんでした。しかし、コロナ禍で体を壊したことを機に、一人でストレスを抱えこむことの怖さと、ご両親との間の心理的距離、物理的距離を見直す気持ちが生まれ、テレワークでオンとオフのメリハリがなくなったまま自己嫌悪に陥っていた生活を見直そうという気持ちになりました。
もし、今後実家の近くへ移住をしたら、友達と会って一緒に飲む機会はさらになくなることでしょう。しかし、Eさんは、友達との関係が疎遠になることは、もう気にしていません。コロナ禍以前の生活に戻ることは望んでおらず、自分にとってこれから重要なことは何かを考えた時、友達と一緒に飲んで楽しむことよりも、ご両親との関係を良くしていくことの方が大切であると、意識が大きく転換しました。
コロナ禍が収束に向かい、生活の基盤となる住まいをご両親の近くに移したら、仕事についても見直したいというEさん。今よりもさらに上のランクの仕事ができるように挑戦したい、と元気よく話してくれました。一度はストレスから体を壊すという望ましくない変化を体験したEさんですが、コロナ禍は、自分にとって本当に大切なものと向き合い、新たな挑戦をしていこうという前向きな気持ちを持つきっかけともなったようです。
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インテージクオリスは、以下の設計で実施した株式会社インテージクオリス・株式会社インテージの共同自主企画の調査結果を元に分析を行っています。